2026年版ミシュランガイド クアラルンプール&ペナンで、新たに一つ星を獲得した話題のレストランをご存知ですか?その名も 「Akar(アカール)」 。マレー語で「根」を意味するこの店は、クアラルンプール郊外の住宅街にひっそりと佇みながら、今やマレーシアの美食シーンで最も注目される存在となっています。
日本人の皆さんにとって、このレストランが特に興味深いのは、シェフが大阪とリヨンで修業した日本人ならではの感性を持っている点です。マレーシアの食材に、日本の繊細さとフランスの技法が融合した唯一無二の料理体験は、まさに「新境地」と呼ぶにふさわしいものです。
大阪とリヨンで磨いた技 — シェフ、エイダン・ロウの軌跡
Akarのオーナーシェフ、エイダン・ロウ(Aidan Low) 氏はクアラルンプール出身。彼の料理人生を大きく変えたのは、大阪とフランス・リヨンでの修行経験でした。特に大阪での日々は、彼の料理哲学の根幹を形成しています。
2020年、パンデミック真っただ中の3月にAkarをオープンしたロウ氏ですが、当初は純粋な「プログレッシブ・マレーシア料理」を追求していました。しかし、年を重ねるにつれ「自分の物語に欠けているものがある」と気づきます。それが、日本で過ごした形成期の経験でした。
「現在の方向性は、私たちがやりたいことの精神に非常に合っています。ただ、日本のディテールは静かに保っています。分かる人には分かる、でも何よりもまず、マレーシアの良さを引き出し、私の日本での経験のような個人的な体験を表現したい」とロウ氏は語っています。
ミシュラン検査員も絶賛したシグネチャー「ケトゥパット」
Akarの料理で最も注目すべきは、ミシュラン検査員が「最も感銘を受けた」と絶賛した「ケトゥパット」 です。
ケトゥパットとは、マレーシアの伝統的なおにぎりで、ヤシの葉で編んだ小さな袋に米を詰めて茹でたものです。Akarのケトゥパットは、その伝統を尊重しながらも、まるで工芸品のような精緻な手仕事で再構築されています。
外側はパリッと香ばしいパイ生地で、中にはベトルリーフ(キンマの葉) がそのままの形で包まれ、ハーブの豊かな香りが広がります。フィリングにはマレーシア産の銀鯰(シルバーキャットフィッシュ) を使用。しっとりとジューシーで、新鮮な甘みのある魚の旨味が口いっぱいに広がります。
添えられるソースは、魚の骨で取った出汁を使ったルンダン・フィッシュ・エマルジョン。ガランガル、ターメリック、チリなどのスパイスと、ココナッツミルクの甘みが絶妙にバランスされています。
日本的な感性が光る、その他の注目メニュー
「Mekar(ムカール)」と名付けられたディナーメニュー(RM588++)では、ケトゥパット以外にも日本的な要素が随所に散りばめられています。
例えば、「カブ・ターニップ」 は、ロウ氏が愛する日本のカブへのオマージュ。キャメロンハイランド産のカブをアイスクリームに仕立て、カレーリーフオイルとオセトラキャビアをトッピングした一品です。カブのアイスクリームは雲のように滑らかで、ほのかな土の香りがキャビアの贅沢な塩味と見事に調和します。
また、「カニの土鍋ごはん」 は、マレーシア華人の定番料理を、ロウ氏のうなぎのひつまぶしへのインスピレーションで再解釈した一品。サバ州産のマッドクラブを使い、土鍋で炊き上げたごはんと合わせています。
ペアリングにも日本酒が登場
Akarの魅力は料理だけにとどまりません。ワインリストには国際的なワインに加え、マレーシア産のライスワインや日本酒もラインナップされています。
ソムリエはメニューに合わせて2種類のペアリングを用意しており、「葡萄」と「米」をテーマにしたそれぞれのペアリングを楽しめます。日本酒に馴染みのある日本人にとっては、マレーシア料理と日本酒の意外なマリアージュを発見できる絶好の機会となるでしょう。
まるで隠れ家 — 店内の雰囲気とアクセス
Akarは、クアラルンプール中心部から少し離れたタマン・トゥン・ドクター・イスマイール(TTDI) 地区にあります。ミシュラン検査員の言葉を借りれば、「典型的な高級レストランが集まるエリアからはほど遠い、日常的な小さな商店が並ぶ場所」に位置しています。
外観は目立たず、錆びた鉄のドアにロゴがプリントされているだけ。しかし、そのドアをくぐると、そこは別世界です。廊下には熟成庫や冷蔵庫が並び、オープンキッチンには季節の食材が美しくディスプレイされています。シェフ自らがゲストに食材の名前や使い方を説明してくれるのも、この店ならではの体験です。
店内は木を基調とした落ち着いた空間で、発酵瓶が並ぶ棚やオープンキッチンが特徴的。チーム全員が若く、料理人もサービスの一部を担い、ゲストに温かくフレンドリーに接してくれます。
訪問前に知っておきたい基本情報
住所:109 Jalan Aminuddin Baki, Taman Tun Dr Ismail, 60000 Kuala Lumpur
営業時間:
予約:完全予約制。予約は確認メールをもって有効となります。5名以上のグループ予約はWhatsAppまたはメール(info@akardining.org)にて。キャンセルは48時間前まで可能です。
支払い方法:Visa、Mastercard、American Express、JCB、銀聯、デビットカード対応。
注意点:ハラルではありません。また、予約はオンラインではなく直接連絡する形式が推奨されています。
まとめ:日本とマレーシアの架け橋となる一皿
Akarは、単なるミシュラン星レストランではありません。大阪で培った日本の繊細さ、リヨンで学んだフランスの技法、そして故郷マレーシアの豊かな食材——この三つが出会うことで生まれた、唯一無二の料理体験を提供しています。
マレーシアを訪れる日本人にとって、Akarは「現地の食材を、自分たちの感性に近い形で味わえる」貴重な存在です。ロウ氏自身が「この賞は私のレストランだけのものではなく、国として、私たちにはまだまだ提供できるものがあるという意味だと思います」と語るように、Akarの料理はマレーシアの可能性を世界に示す挑戦でもあります。
クアラルンプールを訪れる際は、ぜひこの隠れ家のようなレストランで、日本とマレーシアが織りなす美食のハーモニーを体験してみてください。
